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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)2165号 判決 1974年6月17日

原告兼反訴被告 国分株式会社

右代表者代表取締役 国分貫一

右訴訟代理人弁護士 山田利夫

同 五味良雄

同 松田繁雄

被告兼反訴原告 アサヒ産業株式会社(旧商号あさひ食品株式会社)

右代表者代表取締役 染矢俊雄

右訴訟代理人弁護士 金谷康夫

同 川浪満和

同 駒杵素之

主文

一  被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し別紙目録(一)記載の不動産につき大阪法務局北出張所昭和四六年四月五日受付第壱弐六七四号根抵当権設定仮登記に基づく本登記手続をせよ。

二  被告(反訴原告)の反訴請求はいずれもこれを棄却する。

三  訴訟費用は本、反訴とも被告(反訴原告)の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴

(請求の趣旨)

主文第一、三項と同旨

(請求の趣旨に対する答弁)

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  反訴

(請求の趣旨)

(一) 原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し、別紙目録(一)記載の不動産につき大阪法務局北出張所昭和四六年四月五日受付第壱弐六七四号、同第壱弐六七五号をもってなした別紙目録(二)記載の各登記の抹消登記手続をせよ。

(二) 原告(反訴被告)より被告(反訴原告)に対する大阪地方裁判所昭和四七年(手ワ)第一八〇号為替手形金請求事件の判決に基く強制執行はこれを許さず。

(三) 反訴費用は原告(反訴被告)の負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

主文第二、三項と同旨

≪以下事実省略≫

理由

一  根抵当権設定契約の成立

≪証拠省略≫を綜合すると、原告が昭和四四年二月一日被告との間で、本訴請求原因(一)記載の約定のもとに商品売買取引契約を締結したことが認められ、原告が同日以降被告に対し継続して椎茸および瓶、罐詰その他の食料品を売り渡したことは当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫を綜合すれば、原、被告間で昭和四五年八月三一日前記認定の商品売買取引から生ずる被告の買掛債務、手形債務等の支払を担保するため本件不動産について順位第一番、債権極度額金六、〇〇〇万円の根抵当権設定契約および代物弁済予約が成立したこと(その効力については後に判断する)が認められる。被告代表者染矢俊雄は「一番抵当権を設定するつもりはなかった」旨供述するが、同人の供述によっても同人は公正証書の作成に立ち会い自らこれに署名捺印したことが認められ、この事実に徴すれば前記順位一番の抵当権を設定したことはない旨の同人の供述は措信できなく、他に前記認定の事実(根抵当権設定契約の成立)を覆すに足る証拠はない。

原告が昭和四六年四月三日大阪地方裁判所に仮登記仮処分命令を申請し、同日決定を得て本件不動産につき大阪法務局北出張所昭和四六年四月五日受付第一二六七四号根抵当権設定仮登記および所有権移転請求権仮登記の各登記手続を経由したことは当事者間に争いがない。

二  根抵当権設定契約等の効力

被告は、前項で認定した昭和四五年八月三一日成立にかかる根抵当権設定契約および代物弁済予約(以下「本件担保権設定契約」ともいう)は反訴請求原因(二)の2記載のような経緯で成立したものであるから、反訴請求原因(二)の2ないし4記載のとおりの事由(すなわち通謀虚偽表示、錯誤および詐欺)により本件担保権設定契約は無効または取り消されたものであると主張するので以下この主張について判断する。

≪証拠省略≫を綜合すると以下の事実が認められる。

(一)  被告は昭和四三年八月頃原告が訴外株式会社ナカジマに対して有していた売掛債権金二〇四万円を原告に代払したことから原告と面識を得、その後クノール食品株式会社(原告の主要な仕入先の一つであった味の素株式会社の系列会社)の重役からの紹介もあって原告との間に昭和四四年二月一日、支払いは毎月の締(五日および二〇日)後七五日先を満期とする手形決済との約定で、前記認定の商品売買取引を開始するに至った。

(二)  前記取引を開始するにあたり被告はその取引上の債務を担保するため原告に対し奈良の物件二筆に抵当権を設定したほか、本件不動産(当時訴外旭椎茸株式会社の所有にかかり競売に付されていたもの)につき順位七番(ただし家屋については三番または五番の)転根抵当権の設定ならびに停止条件付賃借権の譲渡をした。

(三)  被告は原告との右取引により椎茸以外の一般食品(罐詰味の素など)をも取り扱うようになりこれを主としてスーパー新橋のほか、エコーストアー、やまね商事(昭和四五年三月頃からは相互食品)等に売却した。

(四)  被告と前記スーパー新橋等との取引は昭和四四年一一月頃から支障をきたし、その後は被告の未回収債権は増大の一途をたどり、これに伴ない被告の原告に対する買掛債務も昭和四四年暮頃には約一億円、昭和四五年八月頃には約三億円にも達した。

(五)  被告は昭和四四年暮頃被告が原告を介して椎茸を販売していた丸上商店が昭和四四年一一月頃倒産したため原告に生じた約金三〇〇万円の未回収債権を原告に対して代払した。

(六)  原告は昭和四五年八月頃被告に対し本件不動産をその売掛債権の担保に追加差入するよう申し入れ、被告はこれを承諾した。

(七)  被告はこれより先昭和四五年二月頃本件不動産を競落し、同年七月七日右競落代金を完済したが、被告への移転登記手続が遅れていたためその理由について説明をうけるべく被告(代表者染矢)および原告(村上課長)が同年八月二二日裁判所を訪ねた。

(八)  被告(代表者染矢)は昭和四五年八月三一日原告(村上課長)とともに公証役場に出頭し、公正証書を作成(署名、捺印)した。

(九)  原告は昭和四五年八月頃、被告に対し、取引上の総債務内容(未決済手形明細等)の提示を命じ、そのうち原告以外の被告の債務約金七〇〇万円について原告においてこれを決済処理することとして被告の取引を管理したが、同年九月頃右管理外の被告振出手形(約金四〇〇万円)の存在が判明するに及んで、被告に代表者印、記名印等を提出させ原告が保管した。

(十)  被告は昭和四五年一〇月頃不渡手形を出し銀行取引停止処分を受けたがその後も原、被告間の取引は同四六年三月頃までに継続したが、被告が昭和四六年三月中旬原告に対し「佐伯信用金庫から運転資金三〇〇〇万円を借り入れるため順位一番の根抵当権を設定したい」との理由で、本件不動産につき順位二番の根抵当権設定方を申し入れたため(なお被告は本件不動産につき同年三月三〇日被告への移転登記手続を了した)、不安を感じた原告は同年四月五日仮登記仮処分をした。(このこと自体争いがない)

以上の事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

以上に認定した事実のもとでは本件担保権設定契約における原、被告の意思表示が通謀のうえされた虚偽の意思表示である旨の被告主張事実を推認することはできなく、かえって前記認定の事実すなわち原、被告間の取引の経緯、被告の従前の担保差入状況に本件担保権設定契約当時における被告の買掛債務額および本件担保権設定契約成立のため原、被告間でされた交渉の経過等に徴すれば原、被告が真実本件担保権設定契約を成立させたと推認することができる。前記認定の、被告が原告のためにその売掛債権を代払したとの事実は、被告が原告との取引の開始ないし取引継続をはかるため原告に供与した代償ともいうべく、本件不動産の担保差入の必要をなくし、またはこれに代替しうべきものではないから、右認定の事実によっては未だ被告主張の虚偽表示の事実を推認するに足りない。

被告の販売先(一般食料品についての)がすべて原告の指定する売先(鶴橋食品、中島商店、スーパー新橋、相互食品等)に限定されていた旨の被告主張事実については、これにそう被告代表者染矢俊雄本人の供述は、その根拠は明確でなく、とくに原告(係員村上も含め)において、積極的に限定すべき事由が不明であって、どちらかといえばその点については証人村上彬の証言の方が、取引の経緯、被告の債務整理の過程に照して措信することができ結局、同被告代表者の供述は、≪証拠省略≫に照らして措信できず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

本件担保権設定契約における意思表示が錯誤および詐欺によるものである旨の被告主張事実についても、前記認定のとおり本件担保権設定契約成立後も原、被告間の取引が継続していたこと、右取引破綻の原因がむしろ被告側のルーズな取引形態に存すると認められること等を勘案すると、本件担保権設定契約成立当時原告に真実被告との取引を継続する意思ないし被告を援助する意思がなかったと認めることは難かしく、この点において原告にかかる意思のなかったことを前提とする被告の錯誤、詐欺の主張も理由がない。

したがって本件担保権設定契約における原、被告の意思表示には瑕疵がなく、右契約は有効に成立したというべきである。

三  被担保債権(売掛債権)の消滅時効

被告は反訴請求原因二の(三)記載のとおり原告の売掛債権(被担保債権)は遅くとも昭和四八年六月をもってすべて時効により消滅した旨を主張し、原告は本訴(根抵当権設定仮登記の本登記手続を求める訴)の提記により右時効が中断した旨を主張するので以下この点について判断する。

原、被告間の取引が毎月の締(五日および二〇日)後七五日先を満期とする手形により決済されていたこと、右取引は昭和四六年三月まで継続したこと、被告が昭和四五年一〇月頃不渡手形を出し銀行取引停止処分をうけたことは前記認定のとおりであり、原告は、被告がその頃原告からの買掛債務(約金三億二、〇〇〇万円)につきその支払として本件手形(別紙為替手形一覧表記載の各手形)に引受をしてこれを原告に交付し右買掛債務をすべて本件手形債権に切り替えた旨を主張し、被告はこれを争い、原告が被告の印鑑を冒用して本件手形を偽造した旨を主張するが、本件手形(債権)のうち少くとも別紙為替手形一覧表中30・31記載の為替手形(二通)(額面合計金一、三五六万四、三一六円、満期日は昭和四六年四月二〇日、同年同月二三日)については原告が被告との間で昭和四七年三月三一日当庁昭和四七年(手ワ)第一八〇号為替手形金請求事件において右手形金請求認容の判決を受けこの手形判決は確定した(この事実は当事者間に争いがない)から、右確定判決の既判力により前記二通の手形(債権)の限度においてはもはや切替の効力(すなわち手形債権の有効な成立)を争えなく、したがって右手形の原因関係たる売掛債権(被担保債権)についても時効中断事由のないかぎり右手形(二通)の最終満期日である昭和四六年四月二三日から二年を経過した昭和四八年四月二三日をもって時効により消滅するとしても、原告が昭和四六年五月一三日当庁に根抵当権設定仮登記の本登記手続を求める本訴を提起したことは本件記録上明らかであり、右本訴は論理上根抵当権の被担保債権(売掛債権)の存在の主張をも含むものでありかつその存否について実質的審理がされ、その存在が確認された本件においては、右本訴の提起により被担保債権(売掛債権)についての権利行使がされたものというべく、この意味において原告の本訴提起は裁判上の請求に準じるものとして売掛債権(被担保債権)につき消滅時効中断の効力を生ずるものと解するのが相当である。

そうだとすると被告の消滅時効の主張はその余の点(手形判決の確定による消滅時効中断の主張)についてさらに判断を進めるまでもなく理由がない。

四  請求異議の訴(反訴)について

被告は前記確定の手形判決に対し請求異議の訴を反訴として提起し、原告は右反訴(請求異議の訴)は反訴要件を具備しないから不適法である旨の本案前の主張をするので検討するに、右反訴は被告の本訴抗弁事由(消滅時効)と同一内容の主張を請求異議の訴訟手続内で主張することにより確定の手形判決に対する債務名義の執行力の排除を求めるものであって本訴の防禦方法と関連し反訴要件を具備するから右請求異議の反訴に対する原告の本案前の主張は理由がない。

そこで請求異議の(反訴)請求原因事実について判断するに、被告主張のとおり原告の売掛債権が時効中断事由を生じないかぎり確定の手形判決後である昭和四八年四月二三日をもって消滅時効が完成するとしても、原告が右時効完成前である昭和四六年五月一三日当庁に本訴(仮登記の本登記手続を求める訴)を提起したことは本件記録上明らかでありこれにより右売掛債権の消滅時効が中断されたと解すべきこと前記説示のとおりであるから(同一手続内の他の反訴請求(仮登記の抹消登記手続請求)において原告の反訴抗弁として本訴提起による時効中断の主張がある以上、他の反訴請求(請求異議)についても原告はこの抗弁を主張しているものと解するのが相当である)、右売掛債権が時効により消滅したことを前提とする被告の請求異議の反訴請求はその余の点についてさらに判断するまでもなく(手形金請求訴訟の確定判決に対しかかる原因債権の短期消滅時効を主張しうるかは問題である)理由がない。

五  結語

以上の次第であるから、本件不動産についてされた前記担保権設定契約に基づく仮登記の本登記手続を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、被告の反訴請求すなわち右仮登記の抹消登記手続を求める反訴および確定の手形判決に対する請求異議の反訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奈良次郎 裁判官 松村雅司 裁判官喜田芳文は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 奈良次郎)

<以下省略>

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